「それだったらできそうです」と言ったのは、長年家事はしていたものの、仕事はしてこなかった五十代後半の男性でした。ご家族の心理面談を半年ほど続け、ご兄弟の定年退職の見通しが立ったことで、ご本人とお会いできるようになりました。 就労準備支援では、仕事に近い取り組みの一環として、「軽作業訓練」というものを行っています。一定時間作業に取り組むことで、生活リズムや就労習慣を身に付けていく過程なのですが、その方は作業に興味を持ち、自分にもできそうだと感じられることを伝えていただきました。まだ「仕事」ではないので、ご本人が無理なく「それならできそう」を重ねて参加できるよう、支援の進め方をご本人と話し合いながら計画していきました。 まずは見学、そして体験。無理のない頻度で参加をしながら、「そのペースだったら」と納得できるペースで進めていきました。強制ではないので、難しいと感じたなら別の方法を考えていけばいいのです。作業には黙々と集中して取り組まれ、終わるといつも 「疲れましたが、時間はあっという間に過ぎました」 「自分が取り組むものが、あるというのはいいですね」と、なんだか清々しそうに帰っていきます。もちろん今後の生活の心配はあると思います。しかし、今の「これならできそう」から状況は変わり始めていくのだと、日々教えていただいているように思いました。 継続して軽作業訓練に参加しているうちに、ふと気付くと、別の利用者さんと協力して片付けを行ったり、庭の手入れの話をしたりできるようになっていました。 「それなら、こうしてみましょうか?」と、効率的に取り組めるよう自ら提案することも徐々に増え、ご本人の中で「これならできそう」が広がっていきました。 順調に前へ向いて進み始めたとき、突如として体の病気が見つかったため訓練は中止し、まずは、治療に専念することになりました。ご家族とも相談をして、介護サービス等を使いながら、安心して生活を送れるように整えていくことにしました。 「体が動けるようになったら、またやってみたい」と、ご本人は仰っていますが、まずはご病気と上手に付き合っていけるように、体調を調えていってくださいね。 この方のように、高齢になりつつある方の就労準備では、仕事以外にも身体的、経済的な課題が出てくることがあります。令和四年から始めた、はたらける居場所事業では、「就労を目指す」ことと並行して、活躍の場を求める高齢の方の居場所としても機能していけるような社会参加の場を作っています。一人ひとりの状況に合わせた社会との繋がりを作り、必要なときに必要なサービスと繋がっていけるよう、関係機関と連携をとりながら日々邁進していきたいと思います。