「改めて振り返ってみると、全部ここで話していたことなんですね」就職という一つの目標のために、お話を何度か伺っていると、そのような声をいただくことがあります。 人に話を聴いてもらうと、突然新しい視点に開かれることがあります。相談にいらっしゃる方々は、生きるために試行錯誤を繰り返し、自分を責め、苦しみ、疲れたその先に相談室のドアをノックされます。私たち臨床心理士は、そのような方々の声をできる限りこぼさないよう、耳を傾けさせていただいています。 人に話を聴いてもらうことは、自分の内側から出る気持ちや思いに、自ら耳を傾ける作業とも言えます。そして、自分自身との対話を臨床心理士との相談を通して体験していくうちに、自分のこれまでの視点とは異なった視点を、自らの内に見つけ出されているようです。 これまで何度も転職を繰り返しながら、生きるためにがむしゃらに頑張り、傷ついてきた相談者さんが、相談を継続しているうちに、ふと息継ぎをするように、静かに冒頭の言葉を呟かれました。 頭では分かっていることは、たくさんあります。いろいろな人から正論を説かれることもあります。〈それが正しい〉と分かってはいても、外から入ってくる言葉が体に馴染まないことがあります。それは言葉が拾い切れていない気持ちや思いに、語り掛けられた自分自身が開かれていないからかもしれません。 自分自身との対話を通して、これまで言葉では掴めていなかった自分自身の気持ちや思いを体験できたとき、自分自身の話や外から入ってくる言葉に対して、新しい意味を実感できるのではないかと思います。自分の思いを語り、自分自身の気持ちや思いにこころを開くことは、ときには自分自身にとって苦しく、痛みを伴うことかもしれません。その苦しみ、痛みの先には、これまで振り返ることがなかった、自分自身の生の気持ちがあります。人の話を聴くことと同じように、自分自身の話にただ耳を傾けることは、簡単なようでいて、案外難しいものです。「こんなことを考えている自分は情けない」「こんな気持ちにさせる相手が許せない」と、自分の話にどうしても良いか、悪いかという判断が出てしまうのです。 ただありのままに自分の気持ちや思い、考えに耳を傾ける大切な作業の先に、仕事を含めたその人自身の生き方を感じることができるよう、私たちは支援を心掛けています。