ひきこもりや障がいの疑いがある方なども含めて、生活困窮の方の就労支援に携わる中で、ほとんどの相談者の中に、あるこころの動きを感じることがあります。それは、“誰かのために、何かをしてあげたい”という、こころの動きです。最初は就職に向かうための不安や恐れ、緊張などの気持ちがこころを占めていますが、就労体験やボランティア活動、グループワークなど他者との様々な体験を通して、こころが解きほぐされ、こころにスペースが生まれてくると、そのようなこころの動きが表れやすいようです。そのような場面を目の当たりにしてさらに感じることは、“誰かのために、何かをしてあげたい”というこころの動きが、そもそも人に本来備わっているものなのではないか、ということです。例え相手の気持ちや状況を読むことが難しくても、コミュニケーションが苦手でも、学校や社会に出ることが難しくても、“誰かのために、何かをしてあげたい”という気持ちは、こころの底に静かに流れているように感じます。それは不特定の人がチームで参加するオンラインゲームでさりげなく見知らぬメンバーをサポートしたり、あるいは日常場面で困っている人にとっさに手を差し伸べるなど、何気ない瞬間に当たり前のように表れているからこそ、気づきにくいものなのかもしれません。損得勘定や、自己犠牲や、他者から認められたいという承認欲求とは全く別に、“誰かのために、何かをしてあげたい”というこころの動きが満たされることで、“人とつながりたい”という基本的な欲求も同時に満たされ、さわやかな幸福感を覚えるのではないかと思います。あるひきこもりだった相談者が、対人支援の就労体験を数カ月行ったのち、就職活動に臨む直前にお話されました。「私も、社会の中でつながって、働きたいと思えるようになりました」仕事を通して、“誰かのために、何かをしてあげたい”という気持ちが無理なく満たされるよう、相談者のこころの動きを尊重した支援を行っていきたいと思います。