ひきこもりや障がいの疑いがある方なども含めて、生活困窮の方の就労支援に携わる中で、ほとんどの相談者の中に、あるこころの動きを感じることがあります。それは、〈誰かのために、何かをしてあげたい〉という、こころの動きです。 最初は就職に向かうための不安や恐れ、緊張などの気持ちがこころを占めていますが、就労体験やボランティア活動、グループワークなど他者とのさまざまな体験を通して、こころが解きほぐされ、こころにスペースが生まれてくると、そのようなこころの動きが表れやすいようです。 そのような場面を目の当たりにしてさらに感じることは、〈誰かのために、何かをしてあげたい〉というこころの動きが、そもそも人に本来備わっているものなのではないか、ということです。たとえ相手の気持ちや状況を読むことが難しくても、コミュニケーションが苦手でも、学校や社会に出ることが難しくても、〈誰かのために、何かをしてあげたい〉という気持ちは、こころの底に静かに流れているように感じます。それは不特定の人がチームで参加するオンラインゲームでさりげなく見知らぬメンバーをサポートしたり、あるいは日常場面で困っている人にとっさに手を差し伸べるなど、何気ない瞬間に当たり前のように表れているからこそ、気付きにくいものなのかもしれません。 損得勘定や自己犠牲、他者から認められたいという承認欲求とは全く別に、〈誰かのために、何かをしてあげたい〉というこころの動きが満たされることで、〈人と繋がりたい〉という基本的な欲求も同時に満たされ、爽やかな幸福感を覚えるのではないかと思います。 あるひきこもりだった相談者さんが、対人支援の就労体験を数か月おこなったのち、就職活動に臨む直前に次のようにお話されました。 「私も、社会の中で繋がって、働きたいと思えるようになりました」 その相談者さんはご自身について〈人よりも劣っている〉という考えに長年捉われ、悩まれていました。ご両親との面談を経て、「就職について一緒に考えてくれるのなら」と、就労準備支援事業の相談に至りました。〈人よりも劣っている〉という考えについてお話を伺ううち、〈自分にとって自信になるものが見つかれば、それが武器になる〉という考えに至り、その「武器」をご自身の中に見出すため、対人支援の就労体験を行うことになりました。その後、その相談者さんは、複数の企業に応募し、製造業を営む会社に就職をされました。人と協力しあい、ものづくりを通して社会と関わることに、やりがいを感じていらっしゃるそうです。 仕事を通して、〈誰かのために、何かをしてあげたい〉という気持ちが無理なく満たされるよう、相談者さんのこころの動きを尊重した支援を行っていきたいと思います。