初めてお会いしたとき、その方は言葉少なく伏し目がちで、これまでの就職活動の内容を細切れに話しながら、体を縮ませ涙をこぼされていました。週一回の面談の合間にハローワークでの求職活動を続けていましたが、良い結果に恵まれず、文字通り肩を落としながらご相談にいらっしゃる日もありました。ご本人から出る数少ない言葉は、ご自身の力不足を嘆くものや、資格を取らなかったことへの後悔が多く、静かに虚空を見つめる表情には、力を使い果たしてなすすべのない諦めさえ感じられました。面談が終わると出口までお見送りをさせていただくのですが、その方がじっと道路に目をやりながら、背中を丸めて帰られる姿を見て、ご本人の感じていらっしゃる辛さが如何ばかりかと案じていました。 キャリアコンサルティングと心理面談を並行して行いながら、アルバイト経験から大学、高校、中学に至るまでのキャリアや興味、関心、人間関係などを振り返り、マッチする仕事を共に考え、履歴書や職務経歴書の内容を精査し、面接練習を重ねるうち、少しずつその方の表情に変化を感じるようになりました。ある日の面談では、一緒に履歴書の内容を考えながら、今まで伏し目がちだった顔が前を向くようになり、時折笑みを浮かべるようになっていました。 色々な要因があったと思いますが、大きなきっかけは、ご本人の強みを知ったことでした。 これまでご本人にとっては当たり前で強みとは思えなかったそうですが、お話を伺っていると、それはご本人の中に輝く宝物のように感じたので、その強みからこれからご本人が向かうことのできるキャリアの方角を、広く見ることができるように話を伺いました。 三か月のキャリアコンサルティングの後、その方はこれまで考えもしなかった職種への就職を決めました。就職が決まった後の最後の面談で、その方はこれまでの面談のときとは違った印象の、明るい色使いの服装でいらっしゃいました。面談では今後のキャリアプランや入職後の対応について話をしましたが、真面目な表情の中にも終始気持ちのゆとりが感じられるような、明るい表情をされていました。 「私は自分がダメだと、ずっと思っていました。そんな私のそばに、いつもいてくださってことが嬉しかったです」 最後、その方はそのように言って、相談室のドアを開けていきました。街中へと歩いていくその方の姿は、しっかりと胸を張って前を見て、心なしかふわりと風に乗るかのような、軽い足取りのように見えました。就職活動の結果が伴わない中で、その方はお話されている以上に心の中でご自身を強く責め、また自分を責めてしまう自分自身が嫌になっていたのかもしれません。そしてご自身の強みに気づいていく作業を通じて、自分を責める自分から、自分を認める自分に替わり、表情や仕草に表れてきたのではないかと思います。 就職活動を繰り返す中で、努力がすぐに報われないために、自分自身の得意なことや能力を過小評価し自分自身を許せない自分と、傷つき苦しむ自分との葛藤に苦しまれる方がいらっしゃいます。そのような方に対しては、他人に優しく接するように、自分自身にも優しく接することができるよう、自分を責める自分と責められる自分の両方の気持ちを尊重して伺うようにしています。自分に優しくすることで自分が弱くなるのではないか、自分自身を憐れんでいるだけなのではないかという思いから、自分自身に優しく接することに抗う気持ちが最初のうちは起きてくるようですが、お話を伺ううちに、必要以上に自分を責めることから、自分自身の強みとなる経験や能力への気づきが生まれ、それに伴って表情や仕草にも変化が生じてくるように思います。 辛いときだからこそ、一人で抱え込みすぎて過度に自分を責めてしまうことから、「同行二人」の交流を通して自分を認められる視点を移すことができるよう、まずはご相談のお電話やメールを介して、相談室のドアに手をかけていただければと思います。