あいち福祉振興会の就労準備支援事業では、軽作業への参加をプログラムの一つとして実施しています。プラスティック部品などをリサイクルするために、CDやDVD、電話機、自動車のエアバッグを解体することや、パソコンでのデータ入力、工業用ミシンを使ったタグ付けなどを行っています。どの作業も比較的取り組みやすく、時間に追われたり、軽微な失敗が作業全体に影響を及ぼすことがないので、仕事経験がなかったり(または少なかったり)、直近の仕事から時間が経っている方が、他の方と一緒に仕事をすることや、作業に集中する練習をしやすいものとなっています。 ご自身の資格や経験を活かそうと希望する職種に就労したものの、激務や職場の人間関係、不慣れな業務への異動などで疲弊してしまい、こころと体のバランスを壊される方は少なくありません。ある方も同様の理由で仕事に対する強い不安や恐怖に苛まれたため休退職をした末、就労準備支援事業の利用を自ら希望されました。 最初に軽作業を体験していただいたとき、その方は〈作業を失敗するかもしれない〉という恐怖で、短時間しか作業に取り組むことしかできませんでした。 しかし、ご本人のペースで心理面談や軽作業訓練を続けるうちに、仕事に対する考え方や感じ方が変わり始め、半年後には短時間のアルバイトをされるようになりました。それでも一日仕事をすることについての不安は残っていたので、アルバイトと並行して、就労準備支援の活用を続けました。 それから四か月ほど経ったある日、その方からこのような言葉がありました。 「最初、作業をすることが怖くて仕方がなかったけれど、今は、そのときの自分が信じられません。ここでの作業が物足りなく感じてきました」 不安や恐怖を避けようとせず、ご自身のペースで軽作業に向かい合い続けた結果、こころの中で膨らんでいた仕事に対するマイナスのイメージは少しずつしぼんでいき、こころにゆとりが生まれたことで、現実としての仕事内容やご自身の力を見つめ、物足りなさを感じるようになったと考えられます。 さまざまな要因で委縮していたこころが、本来の健康な状態を取り戻している目安の一つとして、現状に対する「物足りなさ」が語られる場合があります。それと同時に、これから前に進むことで〈同じような不安や恐怖に、こころを傷つけられないか〉という心配も生じやすくなります。物足りなさを語られた方に対しては、健康なこころを取り戻したことを確認すると同時に、同じような心身の不調をきたさないよう、物事への取り組み方やスピード、考え方や感じ方、ストレスへの対処方法などを、ご自身の中で身につけておくことが大切になります。 現在その方は、以前からご自身がやりたかった仕事に就職することができました。定期的に心理面談やキャリアコンサルティングを継続しており、ご自身でこころのメンテナンスをされながら、一歩ずつ確実に歩みを進めています。