「自分でもやらなきゃなぁと思っていたので、今回は本当にいい機会をもらいました」そう話す二十代の男性は、いわゆる「ひきこもり状態」と言われて、ご家族から相談が始まった方でした。 「仕事を辞めてから四年家にいる」 「家族とほとんど口をきかない」と、ご家族からは心配する相談が寄せられていました。 「何か病気なのでしょうか?」 「どうして、本人は何も教えてくれないのでしょうか?」と、ご家族の心配は次第に大きくなっているようでした。 ご本人は学校を卒業後、しばらくしてから就職し、派遣の仕事やフルタイムの仕事を数年間続けてみえました。ある日突然、仕事を辞めて家族とあまり口を聞かない生活が始まり、四年が経ちました。相談員から就労準備支援事業の話があると、本人は興味を示してプログラムに参加をしてくれました。 お会いすると、自分の物は働いていたときの貯金から購入していること、きっかけがあって退職したが、そろそろ貯金も尽きてきて、自分でも〈仕事を開始しないとまずい〉と思っていたと、ご自身の状況を的確に表現されていました。 ご自身でも、「友人は多く、人見知りはしない方」だと話し、求職の計画なども自分なりの進め方や視点をお持ちで、「手に職がある方が安心」だと自動車整備士の仕事に興味を持たれていました。最終的には、前職の経験を活かせる仕事内容を検索して見つけてこられ、問い合わせをして面接に受かり、内定を得ました。 「きっかけがほしかった」と、今回はご家族の相談がタイミングよくもう一度歩き始めるきっかけとなったようでした。「今はどうやら、本人も迷っているようだ」と、ご家族の方も恐らくそんなメッセージをどこかで感じ取り、相談にみえたのかもしれません。 よくご本人から、「何か変わりたいけれど、変わりたくない」と矛盾する複雑な気持ちを教えていただくことがあります。右足でアクセルを踏みながら左足でブレーキを踏むような思いで過ごされている方も多くみえるように感じます。自分でも〈なんとかしなきゃと〉思いながら、家族には気後れや申し訳無さもあり、家族だからこそ話しづらい。きっかけがあっても、そこに踏み出せるかどうかは、時と場合によりさまざまです。日常では笑顔を作り、気長に辛抱強くそのきっかけを探るために、相談を続けているご家族の方もみえます。 きっかけの先は、必ずしも「就職」ではありません。そして、もしかしたら今は、「外へ外へ」と焦るときではないかもしれません。ふと垣間見えるサインときっかけが縦糸と横糸のように紡がれるように、本人の困り事と希望に丁寧に寄り添えたらと思います。