あいち福祉振興会の就労準備支援事業では、キャリアコンサルタントの国家資格を持つ職員が、相談者の就職に向けた準備の支援を行っています。キャリアコンサルタントの業務の一つに、相談者自身の強みや弱みを明確にするため、職務経歴を細かく見直したり(棚卸し、と言っています)、興味関心のあることや、できること・できないことを整理することで、適職を判断する材料を見直す作業があります。これは話し合いを重ねたり、履歴書や職務経歴書を見直したり、さまざまな方法で行われます。そのうちの一つに、パソコンによる職業適性検査を用いて、その結果について話し合うという方法があります。 高校卒業後に工場勤務に勤めるも、作業スピードや周りの人間関係についていけずに退職し、その後もいくつかの工場の転退職を繰り返した後、自信を喪失してしまい、十年以上前からひきこもりの生活を送っていた方が、ご家族と相談にいらっしゃいました。お話を伺った後に職業適性検査を勧めたところ、元々言葉にして表現することが苦手ということもあり、検査の受検を希望されました。その結果、その方は元々製造に関する業務が不得意で、ご本人自身もその仕事に関心が低いことが改めて分かりました。つまり、ご本人は自分に適さない仕事に何とか合わせようと、一生懸命に努力されていたことが分かったのです。 検査の結果を次回の面談で一緒に確認したところ、相談者の方はしみじみと呟かれました。 「私、ダメじゃなかったんですね。本当に、合わなかっただけだったんですね」そして、工場に勤めるたび、作業についていけない自分を責め続け、仕事が長続きしない自分を〈ダメな人間だ〉と思っていたことを話されました。また、検査結果から、対人関係自体は苦手ではないことや、人の役に立つ仕事に関心が高いことが分かりました。これまでの工場勤務では、作業についていけないことで、同じ作業班の方々とギクシャクした関係になってしまいましたが、仕事内容が合えば良好な関係を築ける可能性があったのです。 検査結果を通して話し合いを重ねていくうち、ご本人の中に高齢者介護の世界への関心が高まってきました。しかし、いきなり仕事に就くのは難しいことだったので、就労準備支援事業の軽作業訓練からスタートして、他者と協力して作業に取り組むことに慣れ、ご本人の体力や自信がついてきたところで、介護施設の見学体験を実施しました。施設長や現場の責任者からの評価も高く、ご本人の希望ともマッチしたため、体験先の高齢者介護施設に就職することができました。 ある日、駅のホームで電車を待っていると、就職されたその方とご家族が向かいのホームに並んで電車を待っている姿を見かけました。お二人は私に気がつくと、笑顔で会釈をされました。会釈を返しながら、ご本人やご家族の様子から、仕事が順調に続いていることを伺い知ることができました。職業適性検査を通じて今までの自分を振り返り、これまで見過ごしてきた新しい自分の側面に気づくことができることも、キャリアコンサルティングの醍醐味だと改めて感じました。