カウンセリングに限らず、目標に向かう歩みは必ずしも一直線ではなく、上り坂や下り坂、行きつ戻りつを繰り返しながら、気が付くと以前の自分が遥か下方に見えるような、らせん階段に例えられることがあります。 ある方が心理面談やキャリアコンサルティングを受けながら就職活動を行い、職場見学と実習を経て、三か月も経たないうちに就職することができました。就労意欲は高く、学生時代はアルバイトを継続されていた経験もあり、就職という目標に向けて、まさに一直線に進んでいきました。就労後六か月間の定期連絡でも、ご本人や就職先の企業からは特に問題なく仕事をされているというお話を伺っていました。 ところが、就職してから一年後、企業から「欠勤が増えてきている」という報告がありました。ご本人との面談を行ったところ、仕事に対する不安や緊張が日を追うごとに募っていき、寝る前に翌日の仕事のことを考えて睡眠不足となり、そのため集中力が低下して仕事中にミスを繰り返してしまい、ますます不安や緊張が高まるという悪循環の中にいらっしゃることが分かりました。そのような状況においても、ご本人はできる限りの力を尽くして仕事に食らいついていましたが、そのような日々を繰り返すうちに、とうとうご本人の心身の限界が近づいてしまったようでした。 「相談することが、申し訳ないと思ったんです」ご本人も、そして支援する私たちも、〈うまくいっている〉という思いの中で、ご本人が本当に困ったときに相談できない雰囲気ができてしまっていました。お話を伺っていると、支援を受けるご本人のお気持ちとして、〈うまくいっているのだから、失敗することで周りをがっかりさせてはいけない〉という思いに駆られているようでした。 その後、継続して心理面談をすることにご了承いただき、企業やご本人と数回の話し合いの末、改めて新しい環境で続けられる仕事を探すことになりました。ご本人やご家族、そして支援者が〈うまくいっている〉と感じているとき、果たして何をもって〈うまくいっている〉と言えるのか、慎重にならなければならない、と改めて考えさせられました。 ただ一直線に就労できればそれでよいという訳ではなく、仕事への取り組み方や、日々の過ごし方への思いや感じ方など、生き方そのものについてご本人の内にしか分からない「声」を外に出していただく関係を作ること、そして困ったときや、そうではないときでも、ふとお話をしていただける関係を続けられるよう、らせん階段を急がず確かに共に歩むことが、何よりも大切だと感じています。